手形貸付とは?ビジネスローンと比較してのメリット・デメリット
個人でカードローンなどの借り入れをするのと異なり、法人の借り入れは金額も大きく、リスクも高くなるため、借り入れ方法を吟味する必要があります。
法人の借り入れで一般的なのは、銀行から融資を受けるケースです。ビジネスローンなどに代表される大口の融資は、利率を抑えられるメリットがある反面、審査が煩わしいというデメリットがあります。今回は、法人融資の一種である手形貸し付けについて解説していきます。
手形貸し付けとはどんな借り入れ方法なのか?
事業を経営する上で避けては通れないほど重要なのが、運用資金をいかにして調達するかということです。どれほど事業計画が優れていても、資金が無ければ設備を整えることもできませんし、土地や建物を購入することもできませんし、人を雇うこともできません。
事業開始時の資金調達と、事業拡大時の資金調達がどれだけ円滑に進むかによって、その経営者の手腕が問われてくるといっても過言ではありません。
特に重要なのは、事業がある程度軌道に乗った後、さらに規模を大きくする時の資金集めです。起業時にはある程度自己資金を貯めて、規模も小規模から始めることが多いのでそれほど外部から借りるといったことは少ないのですが、事業拡大の場合、必要な額も大きくなり、どうしても外から資金を集める必要が出てくるのです。
外部からの借り入れと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、銀行から融資を受ける方法でしょう。他にも株式を発行するといった手もありますが、基本的に銀行に頼るのがオーソドックスな資金調達手段となります。手形貸し付けはそんな銀行とのやり取りのうちの一つの方法です。
手形貸し付けとは、債務者側が手形を発行し、それを担保として銀行から融資を受ける借り入れ方法であり、手形には借り入れをする金額、返済をする期日が記載されており、債務者側は、記載金額から金利分をあらかじめ差し引いた額の融資を受けることになります。
手形に記載された期日は変更不可であり、これを破れば即座に債務不履行となる非常に拘束力の強い契約でもあります。
手形貸し付けにおける長所と短所を理解しよう!
手形貸し付けには、通常のビジネスローンにはない特徴があり、それがこの仕組みの長所でもあり短所でもあるのです。
まず、手形貸し付けが利用できるのは「銀行が信用力がある」と認めた法人のみであるという点です。ビジネスローンと異なり、手形貸し付けの契約の要となるのは、発行された手形のみです。言ってみれば小切手のようなもので数百万単位の金の貸し借りをするのです。相手が信用できなければ話になりません。
個人の借り入れであれば、審査で重要になるのは収入が安定してあるかどうかという観点ですが、法人の場合は、前年度の事業損益が黒字になっているかが大きなポイントとなります。
また、起業してから何年経過しているか、借りた資金を何に使うのか、目的が合理性があると判断できるものであるかなどが審査に関わっています。
手形貸し付けは、返済期間を1年以内に設定することが大半です。これは、根抵当権に設定する不動産の価値の変動による流動性を抑えるという目的と、債権側が融資をしやすくするためと考えられています。
根抵当権とは簡単に言えば、手形貸し付けの担保に不動産を設定し、それ以降の手形貸し付けの契約でも同じ不動産を繰り返し担保にすることです。これにより、審査のたびに担保を設定するという手順を省略することが出来るため、債務者、債権者双方にとってメリットになるのです。
銀行が手形貸し付けを好む理由とは
ビジネスローンで200万円借りようとするのと手形貸し付けで200万円借りようとするのでは、銀行の対応がまるで変わってきます。というよりも、金額に関わらず、銀行は手形貸し付けであれば、基準さえクリアしていれば喜んで受けてくれることが多いのです。
なぜ、銀行はこのような対応に違いがあるのか、それは手形貸し付けが極めて債権回収に優れた方法だからです。
法人(企業)にお金を貸した銀行が一番避けたいのは、貸した企業が債務不履行に陥り、債権が回収できなくなってしまうことですが、手形貸し付けはこのようなトラブルに非常に強い仕組みで成り立っています。
まず、審査の段階で借り入れを希望する企業を、事業成績を見て篩にかけることが出来る上、融資をする資金の使用用途を明記させることが出来ます。これによって資金の回収に目処が立っているかをある程度判断することが出来ます。
加えて、手形の期日というのはビジネスローンの約定とは性質が全く異なります。ビジネスローンの約定は、「毎月これだけ返済していきます」という、いわば最低限の返済保証の決め事であるのに対して、手形の期日とは、「この日までに必ず全額返済します」という完済の予定日です。
手形の効力は強力であり、期日を守らなかった相手に対して即座に催促させられる手形訴訟をはじめ、抵当にしていた不動産を売却することによって債権を速やかに回収することが出来ます。
個人でしか借り入れをしたことが無いという人にはなじみが無いかもしれませんが、法人で債務不履行になるというのは、その企業の信用を大きく落とす行為になります。言ってみればその会社は「借りた金を満足に返すことが出来ないだらしない経営者がトップを務めている」と同業者に公表するようなものなのです。
当然業界での立場は一気に落ち込むうえ、経営自体にも悪影響が出るので、経営者は何としても債務不履行を出さないようにします。そうした背景もあるため、手形貸し付けは債権回収率が安定しており、銀行も安心してお金を貸しやすい金融商品なのです。
加えて言えば、手形貸し付けは利益をいつ上げているかといえば、契約当初です。あらかじめ金利分を差し引いた分を融資するため、最初の内に金利分の利益は確保できるのです。そのため、期日さえ守ってもらえれば返済のタイミングを気にする必要がなくなり銀行側の資金運用もしやすくなるというメリットがあります。
ビジネスローンを使った方が良い利用者はどんなタイプ?
銀行が融資をしやすいと言われる手形貸し付けですが、利用者によってはビジネスローンを利用した方が良いケースもあります。
選択の余地が無いのは、前年度の損益が赤字になってしまっている場合です。手形貸し付けは前年の営業成績が非常に重要になってきます。
事業資金に使える個人向け融資というものがあり、手形貸し付けでもビジネスローンでも審査に弾かれたときに最後に頼るのは恐らくこれになるでしょう。金利は最も高くなりますが、何としても資金を集める必要があるときなどは、どうしてもこのような個人向け借り入れに頼るしかなくなるのです。
また、起業して間もない経営者もビジネスローンを利用した方が良いでしょう。手形貸し付けは、法人にある程度の信用が無いと融資に応じてくれません。出来たばかりの法人はまだ信用がある状態ではありません。起業して最低でも3年は社会的信用を得ることを目標にすべきです。
返済は一括が基本!手形貸し付けの注意点
最後に、手形貸し付けの最大の注意点である一括返済について解説していきます。これが手形貸し付けが他の融資と明確に違う部分であり、特徴的な点でもあります。
手形貸し付けの借り入れ期間は原則1年以内であり、返済回数も一括返済が基本となります。
つまり、最初にまとめて借りたら少しずつ返済するのではなく、期日に耳を揃えて返済するというのが手形貸し付けの利用方法となります。例外的に金額が大きい手形貸し付けでは分割返済が認められていることがありますが、1000万円未満の融資ではほとんどが一括融資一括返済です。
何度も述べたように、手形貸し付けで期日を破るのは絶対に避けるべき行為です。債務不履行すなわち不渡りを出すことになり、銀行の評価は大きく下がり、金銭的・社会的信用は一気に失われます。
経営者の間でも、約束手形は何より優先して守るべきものという共通認識があるほどなのです。返済が近づいたときにまとまった資金が用意できていないといった事態にならないように細心の注意を払う必要があります。
企業には致命的?不渡りが出るとどうなるのか
補足として、不渡りが出るとどのような影響が出るのかを簡潔にまとめておきましょう。
手形貸し付けを代表とする約束手形や小切手の期日に決済が出来ない(返済できない)状態になることを不渡りといいます。
不渡りは個人ではなく企業単位の話です。個人で例えるなら、滞納状態に相当すると考えてもらえばわかりやすいのではないでしょうか。要するに、指定された日に指定されたお金を払えない状態になっていることです。
企業が不渡りを出すのがどうして致命的なのかというと、不渡りを一度でも出すと、その日のうちに日本に存在するすべての金融機関に、「この企業は不渡りを出した=貸した金を返せない事態になった」ということが通知されます。
こうなると、多くの銀行や信用金庫が「この企業にお金を貸しても回収できなくなる危険性がある」と認識して、融資を受けるのが極めて困難になります。
一度目の不渡りを出してから半年以内に二度目の不渡りを出すと、国から全ての銀行に対して「銀行取引停止処分」と言われる命令が出ます。
これは国が銀行に出す命令です。内容は、二回の不渡りを出した企業に対して金融取引(決済・融資など)をすべて禁止するというものです。
当然、国からの指令のため金融機関は従わなくてはならず、これを無視した場合は、その金融機関に対しても厳しい罰則が科せられます。これによって、二度の不渡りを出した企業は事実上金融機関を利用することが出来なくなります。
企業の経営者であればわかると思いますが、企業にとって銀行等が全て利用できなくなるということは、他の企業とのやり取りも不可能になり、投資も封じられ、資金繰りそのものが非常に困難になることと同義です。
「不渡りが出る=事実上の倒産」と言われるのは、こうした金融取引に大きな制限が課せられるためなのです。手形貸し付けで返済できないという事態は即座にこの不渡りにつながるため、債務者は必死になって返済期日を守ろうとするのです。銀行もそれを分かっているので、回収のしやすさを鑑みて、融資を認めやすいのです。
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